渡辺護、『日本セックス縦断 東日本篇』を語る

(以下のインタビューは、渡辺護自伝的ドキュメンタリーの『つわものどもが遊びのあと 渡辺護が語るピンク映画史』、『渡辺護が語る自作解説 事件ものを撮る』からの採録です)

『日本セックス縦断 東日本篇』(71年・68分・カラー)
監督:渡辺護、脚本:太田康(下田空、小栗康平)、撮影:古川丈夫
出演:今泉洋、高見由紀、小城かほり、磯香亜矢、桑山安里、天野照子、千草志保

井川「これは何で『日本セックス縦断 東日本篇』ってタイトルなんですか?」
渡辺護「それはね、お正月作品で(公開は1971年7月)、(東京興映の社長・小森白から)「渡辺ね、ヒットさせてくれ」って大分前から言われてたんだよ。高校生の兄ちゃんが悪いことして(旅して)行く話を撮れって言われたわけですよ。要するに、カバンしょってさぼって地方を旅してる間に、女学生と関係しちゃうみたいな暴行ものっていうか、そういう話で行けって。旅をしていく話で、大作で行けみたいな企画だったんですよ。
おれは案外のってやったんだけど、石森史郎の方もお手上げで、それから、あのとき、(脚本を)頼んだのは……、吉田義昭もお手上げなんだよ。
で、約束の日にちがつまってきちゃったんですよ。それで、どうしようかなって、本当に今でもおぼえてるんだけどね、新聞読んだらね。大久保清が事件起こしたのが書いてあるわけですよ。最初の事件が。
大久保清の家は、大久保清の親父が非常にスケベで、パン屋やってて、買いに来る奥さんの尻をよく触ったり、猥談ばっかりやると。その息子ってのは小学校の頃から女の子を連れ込んで変なことをした。「あの子と遊んじゃいけない」って言われてた子だってことが書いてあるんですよ。おれはアメリカ映画の『悪い種子』っていう映画を(思い出した)。
よく調べたら、どうして大久保清が犯罪に走ったかというと、自分の女房がいるんですけど、女を暴行してブタ箱入ってる間に奥さんが親父にやられちゃうわけですよ。そうすると、(大久保清が)「おれの女房とやって、お前、どうやってけじめつけるんだ、このヤロー!」って言うと、「お前、どうしたら勘弁してくれるんだ?」「車を買ってくれ」。それで、暴行するために車買ってくれっていうところまでの話は(新聞に)出てたんですよ、大体、その話は。
それをシモ(下田空)に言ったら、「面白いですね」って。それでともかく大久保清の話――これ、大久保清って名前、使っちゃいけないんですけどね、だから、(映画では)久保清になってんだっけな。
で、そこまでの話として、脚本つくったんですよ。車のクーペだっけな、クーペが走る出すところまでで映画は終わるんだよ。そういう脚本で構成したんですよ。
そうしたら、その脚本できて(撮影に)入ろうと思ったら、殺人を、八人殺したって報道されて、大騒ぎになっちゃったわけだよ、日本国中が。後で『連続殺人鬼 冷血』で勝田(清孝)を撮ってるけど、そんなもんじゃない。あのときの大久保清の殺人事件ってのは、何てんですか、日本中、テレビは毎日さ、大久保清ですよ」

字幕「大久保清事件/1971年3月から5月にかけて群馬県で/画家を名乗って女性を誘い、暴行。/そのうち8人を殺害。/5月14日逮捕。」

渡辺護「そうしたら、パクさん(小森白)がさ(旅館まで電話をかけてきて)、「全部、これ撮れ」って言うわけだよ。八人殺したの、次から次としゃべっていくじゃない。それが全部、報道されるわけですよ。「あれを渡辺、行け」って言うけれど、まだね、全部、内容を白状してないんですよ、たしか。週刊誌が毎週毎週、(撮影に)入る前に何度かあったんですけど、ちょっと忘れたな。「週刊誌を集めて全部撮れ」って言ったときには、あのね、おぼえてるけど、もう撮影に出発しちゃってるんですよ。そうなんですよ」
井川「クランクイン、もうしちゃってるんですか?」
渡辺護「クランクインをしちゃってるんですよ。クランクインして、クーペを借りて移動したんですから。そうしたらそのとき、クーペの走りをまず最初に撮ったんだよ、パーッと走っていくところ。
そうしたら、(小森白が)「全部撮れ」って言うから、脚本がダメになっちゃったわけだよ。それで小栗康平とシモが整理だよ。犯罪の順番で(シナリオを)整理だよ。脚本家はシモだから。で、群馬だから、小栗は。群馬のいろんな場所、出て来るでしょ。(小栗は)よく知ってるから、それで(二人に)構成を。「とにかく犯罪の順番で並べろ」と。で、書かせたんだよ。三日くらいで書いたんじゃないかな。二日か一日くらいで、大体。
(下田空と小栗康平がシナリオを直している間、)とにかく実景を撮ったですよ。バス停にきれいな女の子がいたんだよ。「あれ、撮ろう。おれがいろいろしゃべるから」。女、ひっかけるとき、いろいろしゃべるじゃない。そういうとき、何を言ってるか、セリフは関係ないよな。で、「おれがその女のひとに話しかけるから、キャメラ用意しろ」と。それでキャメラ用意させてさ、(女性のところまで)行って、「あの、警察行きたいんだけど、どう行ったらいいんでしょうね」とか何とかしゃべったら、(女性が)「ええ、あのう、これからですね……」って(道の説明を)やるじゃない。キャメラでバーッと(撮ったら)、それが美人なんだよ。
そうしたら、若松孝二がさ、この映画見てさ。「出て犯される女はブスだけれど、実景で撮る女はみんな、美人だったな」って言われてさ(笑)。あいつ、アラ探してんだよ。評判よくて入ったからね、この映画は。
そういうことやって撮ってたですよ。
そうするとね、移動しながら、(被害者が大久保清に)実際に誘われたところのホテルの前なんかで撮ってるわけ。だから、あの映画はね、そういう意味では本当に残しておかなきゃいけないもの。事件ものとして残しておかなきゃいけない。だってね、大久保清の家、映ってんだからね。女(大久保清の妻)が出て行くでしょ。子ども連れて出て行くときにふりむくところ、大久保清の家、映してるんだからね。大久保清の家から出るところは撮れないけど。
おれね、(主演の今泉洋に)ルパシカ着せて歩かせたんだよ。そうしたら、わあーって桐生で(ひとが集まってきた)。「あっ! 大久保清だ!」って、もうね、撮影が大久保清(の事件もの)だってのが、群馬一帯に知れ渡っちゃったんです、何だか知らないけど。
で、そいつ(今泉洋)をね、桐生で歩かせてたらね、「あっ! 大久保清の映画だ!」。わあーって(ひとが来るから)、もう映画ができない。「監督、ルパシカだけ脱がしてくれ」って(今泉に言われて)、ルパシカじゃなくしちゃったんだよ、衣装は。そこの歩きだけはルパシカ着たけどね。で、ポスターは、女を抱いてるポスターでは(ルパシカを)使ったけどさ。ホント、おっかしいよ、あの映画は。面白いって言えば、面白かったね、あの撮影は。
だけど、終わってから、おれはいい勉強になったと思ったのはね……、映画はどう撮ったってつながるんだと。どう撮ったって映画はつながるんだっていうふてぶてしい確信を持ったね、おれ。あれ、いい経験したなって。つながり、考えないんだから。もうナレーションでつないじゃおうって。もう映画演出がないわけですよ。それだけだねえ、終わってから、いい経験したっていうのは。いわゆる、何て言うんだ……、映画はどう撮ったってつながる。このあと、演出、変わったね、おれ」

字幕「『日本セックス縦断 東日本篇』は/7月に公開され、大ヒット」

渡辺護「それで、この映画(『日本セックス縦断 東日本篇』)があたったんで、警察ににらまれてさあ。おれが18才未満の女を(女優で)使ったってんでさ、前科者になるとこだったんだよ。
参考人だって形で行くわけですよ。(警察は、)一人の女の子が18才でないのに出たから、それは18才未満を使ったんだから、犯罪者だ(って言うんだ)よな。
ところが、女優を選ぶとき、プロダクションに年を訊いたりなんかしてやらないじゃない。だから、そういうことつっこまれたら、みんな、犯罪者になっちゃうわけだよ。
おれも考えてみれば……、最初に使った頃の谷ナオミは16か17才なんだよな。おれ、そんなこと思わなかったよ。ふけてるんだよな。
ふけてるって言えば、辰巳典子がそうですよ。16才のときからキャバレーで働いて、家のために一生懸命働いて、それが十代のときにピンクに出たんですから。もう、金に困ってやってるってのがあるわけですよ。
だから、おれは、このときは……少年課だよ。
調べられたらさ、「みんなが見ているところでベッドシーン撮ったんだろう」って言うからさ、
「いや、それはしてません」
「誰か見てるだろ」って言うんで、
「助監督やなんかが、それ(ベッドシーン)やるとき、両サイド見張ってますから。誰かが来たら、女優の名誉のために、ひと前でそういうもの撮るわけにはいきませんから。それは絶対ありえない!」
といったら、(取り調べの刑事が)何か怒鳴って言ったんだけど。
ふざけるな、この野郎!って思ったけどさ」

渡辺護「「今日は用事あるから行けねえ」って(電話で)言ったら、よし! 警察の何とかでもって、お前をあれするぞ!みたいなことで脅かしてくるんだよ。
刑事がパクさん(小森白)も(18才未満の子を使ったことを)知ってるだろうって言うからさ、「そのことは知らない」って、小森白の名誉もあるしね。
それで、パクさんは――東京興映の制作主任は、早坂って有名な裁判所のひとの息子なんだよ――「そこに(話をして)手をまわすか」って言うんだけども、「いやあ、別に今のところ、どうってことないですから」って(答えた)。
二、三回くらい(警察に)呼ばれたかなあ。
おれが(警察で)待ってるときに、警官にさ、
「これ、いけないのか。おれは映倫を通してやってんだし、何か間違ったことやってんのかな」
って言ったら、
「いやあ、やっぱり、それは犯罪になるんですよね。警察としては(調べなくちゃいけない)……」
おまわりがそう言ってから、
「(小さな声で)渡辺護さんですか? 見てます」
笑っちゃうよ、この世界は(笑)。
それから、お昼休みにメシを食いに行くことになって、大蔵省だかの方がうまいから、大蔵省に行って食おう(ということになった)。
大蔵省だったか通産省だったか、どっかに行って食ったんだよ。
「うまいでしょ、ここ。警察より、こっちの方がうまい」って言いながらね、おれを犯罪者にして点数をあげようと思ってるわけだよ」

渡辺護「ところがね、結末が笑っちゃうんだよ。ドラマになるよ。
(問題の子が)18才になってたんだよ。犯罪、成立しねえわけだよ。
参考の書類みたいなもので、提出したものがあるわけだよ。その、要するに……」
井川「スケジュール表ですか?」
渡辺護「この撮影のスチール。東京興映が参考書類ということで提出していたんだよ。そんなの、いらねえけどさ、取りに来てくれと。
で、行ったら、検事が(書類を見ながら)「こんな調書を……。バカだな、こいつは」って刑事のことを笑ってましたよ。
(検事が)「いや、ごめんなさい。すみませんねえ」って謝って、「これ、お返しします」。
検察の一面を見たね。
インテリくさい顔をした検事がね、「何て調書を書いてんだ、このバカが……!(調書を閉じて)すいませんでしたね」。そういう言い方で、「じゃ、これ、書類をお返しします」
そういうの、ありましたよ。
あれ、一つ間違えたら、おれ、18才未満(の子を使ったということ)で前科者ですよ。恐いなあと思ったですよ、警察は」