渡辺護、監督デビュー作『あばずれ』(65)を語る(渡辺護自伝的ドキュメンタリー第一部から)

以下のインタビューは、『糸の切れた凧 渡辺護が語る渡辺護』(11)から、『あばずれ』(65)を撮ることになるまでの経緯を語った部分を再録したものです。

○『雪之丞変化』を参考に少女の復讐ものを

字幕「1964年(昭和39年)、テレビ映画、教育映画の助監督だった渡辺さんは成人映画の世界へ」

字幕「翌年、成人映画の監督を探していたプロデューサー斉藤邦唯に、西條文喜を紹介。吉田義昭と脚本を準備することになる」

渡辺護「(シナリオの打ち合わせの)最初のときはねえ、あのう、(山本周五郎の)『五瓣の椿』ってのが頭にあったわけじゃないんですけどね、話してるうちにそうなったってのがあるんですよ。『五瓣の椿』っていうよりも、少女を主役にした方が(いいんじゃないかと考えた)。
その当時の映画を見ていると、ピンク映画(を見て、どうしたらいいかを)計算すると……。
要するに、(若松孝二の)『不倫のつぐない』とか、えーと、それから、まあ、なんてんだ……、少女が出てくる企画って(ピンク映画には)ないんですよ、あんまり。
一応、おれの中に、十七才っていう女に対するあこがれ? あこがれじゃなくて、いわゆる「好き」なんだな。
(少女が)好きだっていうのと……。やっぱり、ドラマとしてどういうふうに展開していくか(を考えたとき)、十七才(の少女)っていうと、純粋なのと、物事やるって言ったら大胆なのと……、それから、なんかそういう意味では素材としては魅力的だっていう話から入ったんですよ」

井川「『雪之丞変化』(監督・衣笠貞之助、脚本・伊藤大輔)の話は打ち合わせのときにも?」

渡辺護「もう出てる。いや、むしろ『五瓣の椿』より『雪之丞変化』の構成を。構成は『雪乃丞変化』だもん。
だって、おやじがさあ、裏切られて自殺して――殺されるんだけどね、『雪之丞変化』では。それで息子が見て復讐してやるだろ。
それを少女にした形で話を展開していったようなもんだね」

井川「じゃあ、要するに『雪之丞変化』を少女でやったらどうだっていう……」

渡辺護「そういうことになってったわけだよね。ピンク映画だから(笑)。
おれは『雪之丞変化』やりたかったけどね。(ピンク映画には、)役者いないけどね、長谷川一夫みたいなのは」

○ 監督をやることに

字幕「脚本はできあがったが、西條文喜は別の成人映画を撮ることになった」

渡辺護「脚本はとにかく(配給会社に)届けたわけですよ。それでおれが説明したわけですよ。
自分で企画して書いてるホンだからね。吉田(義昭)ってやつと話して一緒にやったホンだから、全部暗記してるから。
やったら、その説明うまかったんだよね。そしたら、(配給会社の考えとして)返ってきたのが、「(監督は)あのホンを持ってきたやつでいいんじゃないか」と。で、監督になっちゃったんだよ。
そしたら斉藤(邦唯も)、「そうね、ナベさんがいたね。ナベさんでいいよ。ナベさんでいこう」ってことになっちゃってやったわけですよ」

井川「もともとはあれなんですか? 西條文喜のためにつくったシナリオで、渡辺さんは別に撮るつもりはなかった」

渡辺護「そうそうそうそう。おれ、そんなの一つもない、自分で監督がやりたいとかなんとかっていうのは。
(「監督を」と)言われりゃ、やったってことなんですよ。
そういうとこ、おれ、大らかなんですよ。いや、おれがどうしても自分で一本撮りたいとかなんとかって(ことはなかった)。
やるとなったら、顔色変わったよ、おれ。他人のことで演出に口を出すのは楽だけど、自分の名前、タイトルでもって一本つくるとなったら、そうはいかないよなあ。いや、顔色変わったよ。おれが撮るんなら、もう一度ホンを書き直すって言ってさあ、ハッハッハ」

井川「書き直したんですか?」

渡辺護「(笑ってうなずく)おれが撮るとなったらイメージちがって、もうすごいっすよ。もう『雪之丞変化』だよ。
監督のコンテ割りってえのかな、カット割りの(ことまで考えた)脚本の直し方をしたわけ。
早く言えば――、線路がある。老人が歩いてくる。自殺だな。
そうすっと、パーッと列車が走ってくる。あーっていう感じで、バッと(老人が)フレームアウトして列車が走り去る。
すると、少女の顔がはッと(目を)上げると、目ンとこだけ(の画面)で、目だけの下に『あばずれ』って字が出る」

○ 撮影の準備

字幕「準備」

渡辺護「スタッフをそろえるのに、どうもねえ、おれの知ってるピンクでつきあったキャメラマンってのは、ひとりしかいないからねえ。潮田さんじゃ、しょうがないなあ……。
そしたら、(助監督でついたことがある監督の関喜誉仁がスタッフ編成に協力してくれて、)「タケノさんが遊んでる」って。遊んでるって(言い方)、あれは面白いね。
「タケノさんが遊んでる」
「タケノ……、ああ、いいですね。ああ、だけど、あのう……、タケノさんって?」
「竹野治夫さん。このひとでいいよ」
って言うから、
「ちょっと待って下さい。松竹で時代劇を……、高田浩吉の『伝七捕物帖』、撮ってた竹野さんですか?」って言ったら、「そう」って軽く言うんだよ(笑)。
「やってくれるんですかあ?」
「うん、もう空いてるからね。今ヒマなんだよ」
って、こういう感じで。(注:竹野治夫は『伝七捕物帖』の撮影はやっていないようである)
キャメラが竹野さんで、照明が村瀬の栄ちゃんっていって、黒澤組なんだよ。で、村瀬栄一ってのは、その黒澤組の『酔いどれ天使』のときのチーフ照明なんですよ」

井川「あ、そういう方なんですか」

渡辺護「それでさ、(村瀬栄一に)『酔いどれ天使』のラストシーン撮るときの特撮の苦労の話なんかよく聞いて。だから、すごいんだよ。おれンところは」

字幕「渡辺護第一回監督作品『あばずれ』
製作:斉藤邦唯
脚本:吉田義昭
撮影:竹野治夫
照明:村瀬栄一」

渡辺護「キャスティングは、おれの記憶では森美沙――(後に大映に行った)梓英子。
『日本拷問刑罰史』を見て、(森美沙が)いいから、あれを使いたいって小森白さんの事務所に行ったら、貸さないわな。
で、飛鳥(公子)ってのは……、写真が出てたから、それを見て、これ(かな?)って会ったんですよ。
で、あのことがあったんですけどね(笑)」

井川「いやいや、その話もして下さいよ」

渡辺護「(飛鳥公子を事務所に)呼んだんだけどさ。
不満なんだけどさ、まあ、だけど、もうプロデューサーは決めちゃってほしいのってのあるよね。
うーん、だけどなあ。
「よく映画で見るとさあ、パンティーが不潔だったりするのあるからなあ。きれいなパンツはいてんだろうねえ」
って冗談だよね、半分。そういうこと言ったら、(飛鳥公子が)
「失礼ねえ。きれいかどうか、じゃあ、見て下さい」
って言って立ち上がって、パッと(スカートを)めくったんだよ! はっはっはっは。
そしたら、(プロデューサーの)斉藤がさ、笑って椅子から落っこってやがんのさ。
マネージャーはマネージャーで、へへって(笑ってる)。
それで(飛鳥公子を主演の立子役で)使わなきゃなんなくなっちゃったわけよ」

(一同笑)

渡辺護「その動作見て、やっぱりさ、そりゃ、まあ、可愛いって言えば可愛いからさ。
で、左京未知子は……、大蔵貢の片腕だったひとで、昔、上野でもって(映画館の)支配人やった大島さんってひとが、左京未知子を交渉してくれたりなんかして、それで、(文枝役は)左京未知子になったんですよ」