参考資料:監督デビュー作『あばずれ』(65)のストーリーなど(井川耕一郎)

以下の文章は2010年にmixiに書いた渡辺護自伝的ドキュメンタリー製作日記の再録です。
渡辺護の監督デビュー作『あばずれ』(65)はフィルムがもう残っていないと思われていましたが、2014年に16mmプリント(60分の短縮版)が発見されました。
『あばずれ』は、12月5日(金)~7日(日)、神戸映画資料館で上映されます(併映作品は、『(秘)湯の町 夜のひとで』(70)、『色道四十八手 たからぶね』(14))。

製作日記:『あばずれ』のあらすじ(1)2010年7月30日

渡辺護の監督デビュー作『あばずれ』はフィルムが残っていないようである。
ポスターもスチル写真も見つかっていない(今年の一月、神田の古本屋で60年代のピンク映画のスチル写真の山を見つけ、あさってみたことがある。『紅壷』、『うまず女』、『のたうち』、『女子大生の抵抗』は出てきたが、とうとう『あばずれ』は見つからなかった)。
今のところ、『あばずれ』に関係あるもので残っているのは、三つのシナリオだけである。

(1) 印刷台本『あばずれ』(1965年)
渡辺さんが撮影現場で使ったもので、表紙には『あばずれ』とあり、シナリオのタイトルがそのまま公開タイトルになったことが分かる。
(もっとも、「製作 斉藤邦唯」と記されたページには手書きで「十七才の殺意 処女残酷」とあって、タイトルが変わる可能性もあったようなのだが)。
このシナリオは、以前、渡辺さんが「もういらないから」と言って広瀬廣巳さんに渡したもので、今は井川が保管している。
広瀬さんの話では、脚本は渡辺さんから受け取った時点でかなりボロボロになっていて、ラストの数ページが欠落していたとのことだった。

(2)印刷台本『とろける』(1980年)
ぴんくりんくの太田耕耘キさんが保管しているもので、『あばずれ』のリメイク『変態SEX 私とろける』の印刷台本。
撮影で使ったものらしく、カット割りなどの書き込みがある。
登場人物の名前や基本設定、話の大まかな流れは、『あばずれ』とほぼ同じだが、75分あったオリジナル版を60分におさめるための変更がなされている。

(3)生原稿『十七才』(1990年代?)
渡辺さん自身が二百字詰め原稿用紙に書いたシナリオ。
これは『あばずれ』の印刷台本をほぼ忠実に書き写したもので、欠落したラストが書き足されている。
渡辺さんの話では、90年代に『あばずれ』をVシネマでリメイクしようとして書いたものだという。
原稿は井川が保管。

以下に記すあらすじは、(1)の印刷台本『あばずれ』をもとにして、欠落したラストについては、(3)の生原稿『十七才』で補ったものである。

『あばずれ』(脚本タイトル『あばずれ』)
1965年・扇映画
製作:斉藤邦唯
監督:渡辺護
脚本:吉田貴彰(吉田義昭)
撮影:生田洋(竹野治夫)、照明:村井徹二(村瀬栄一)
監修:沖弘次(関喜譽仁)
出演:飛鳥公子(立子)、左京未知子(文枝)、千田啓介(剛造)、天野良一(早田)、明(黒木純三郎)

川辺の道をヨロヨロと歩いてくる男――山川剛造。
足を止め、川面を凝視していると、鉄橋をつんざくような音とともに電車が通り過ぎる。
目が異様に見開かれ……、剛造、身をおどらす。

ベッドの上で抱き合っている男女。
男「何をこわがってンだ」
女「だって……」
男「何もお前のせいじゃないぜ。社長は勝手に死んだんだ」「……立子だって、まさか俺たちがしくんだ芝居とは思ってないだろ」
女「何の事?」
男「しらばっくれるない。あの時お前がやとったうすぎたない野郎共のことさ」
女「それ……それを言わないで」
男「死んだのは誰のせいでもない。社長は勝手に死んだんだ」
女「ひどい人」
男「ひどい女だ!!」
女は剛造の妻・文枝、男は剛造の印刷会社の主任・早田だった。

ハンカチで目をおさえているセーラー服姿の立子。
早田「皆さん、本当にありがとうございました。おかげでおとむらいもとどこおりなくすます事が出来まして社長もきっと安心して成仏なさった事でしょう」
早田が焼香をしようとすると、立子がその手をつかむ。
早田「お嬢さん……」「あっ、こりゃ、ボクのお焼香の作法、まちがってますか」
立子「おことわりします」
文枝「立子! パパの御仏前で何て事を言うんです」「さ、早田さん、御焼香してやって下さい」
再び香をつまむ早田。
立子「早田さん……」「パパが見てるわ」
その言葉にギクッとする文枝と早田。
立子は黒枠に入った剛造の写真をじっと見つめている。

話は剛造が文枝と再婚したばかりの頃に戻る――。
立子はごちそうをつくって、新婚旅行から戻ってきた剛造と文枝を迎えた。
立子「パパとママの為に乾杯!」
剛造「立子、文枝、これからのつきあいは長いンだ。仲良くやってくれよ」
立子「ママ……何だか照れちゃうけど、やはりママって呼ばせてね」
文枝「立子さん、よろしくね」

だが、立子と文枝の関係は剛造が望むようにはならなかった。
洗濯物を干す手をとめて、タバコを吸っている文枝。
そこに立子がやってくる。
文枝「立子さん、お昼はおスシでも食べたいわね――」「○○寿司へ電話して、三人前」
立子「……ハイ」
文枝「早くしてね。わたし、お腹ペコペコ」
干してある黒いスリップや出前ばかり頼む態度に、立子はなじめないものを感じていた。

夜遅くなって仕事を終えた剛造は文枝に尋ねた。
剛造「どうだい、この頃立子とは……うまくいってるか」「何をふくれてるんだ、え?」
文枝「貴方は、どうして立子さんの事ばかり気になさるんです」
剛造「どうも、お前と立子との間がしっくり行っとらんようでな」
文枝「立子さんが何か言ったンですね」
剛造「いや、あの娘は何も言わん。言うはずがない」
すると、文枝は剛造にしなだれかかって言う。
文枝「私は貴方の妻よ、ねえ」「ひどいわ、これで三日もほったらかしよ」
剛造「文枝、立子が、立子がまだ起きてるぞ。あの娘だって年頃なんだし……それにお前はもう、バアのホステスじゃないだから」
文枝「ひどいわ――、いまどきの娘は何だって知ってるわよ!」
剛造を押し倒し、接吻する文枝。
剛造「わしが……わしが悪かったよ。わしは今迄たのしいことのなかった男だなァ、文枝」
その会話を偶然聞いてしまった立子は、二階の自室に戻ると、レコードをかける。
はじき出るモダンジャズ。リズムにあわせて狂ったように立子は踊りだした。

数日後、文枝は剛造の印刷会社の主任・早田を料亭に呼び出す。
早田「奥さん、一体どうしようってンです?」
文枝「使いこみなんて、ケチな事して? あんたうだつ上がると思うの」「あたしだったら、そんな事しないな……」
早田「奥さん……」
文枝「早田さん、この手を握ってくれるわね」
さしだした手を早田が握ると、文枝は早田におおいかぶさる。
文枝「これで、山川印刷の財産は私たちのものよ」
だが、文枝は気づいていなかった――学校帰りの立子が文枝の姿を見かけ、料亭の前までつけていたことを。

立子が家に戻ると、剛造は一人ポツネンと酒を飲んでいた。
立子「(肩を揉み)パパ……やせたわ」
剛造「う、そうかねエ」
さみしく笑う剛造に、立子は自分が見たものを告げることができなった。

それから一ヵ月後のある夜、立子が風呂に入っているところに、文枝がやって来る。
立子は思い切って文枝に向かって言う。
立子「ママ、私はママに絶望しちゃったの」
文枝「どう言う事、それ」
立子「あたし、ママにだまされてたのよ。パパもそうよ。パパと結婚するまでのママはやさしかったわ。美しかったわ。この人とならやってゆける。あたしそう思った。そう思ったからこそパパの再婚に賛成したのよ」
文枝「賛成」
立子「そうよ。パパは言ったわ。お前がどうしてもいやだと言うならわしは諦めるよって……」
文枝「――」
立子「――その時のパパ、とてもさびしそうだった。あたし、パパがたまらなく可哀そうになったの。見ていられなかったの。ママ! ママには判る。本当の母さんが死んでからパパは……パパはあたしだけの為にただただ働いて下すったのよ。だからあたし、パパの気持が判るような気がしたの。その時あたし一寸ロマンチックな気持だったのよ。そんなパパが愛してる女の人ってどんな人だろうって。それであたしママのバーへ行ったのよ。ママは想像どうりの人だったわ。うすぐらいバーの片隅でママはすてきだったわ。でもね、ママ、あたし段々判ってきたの。ママはバーのキャンドルのそばにいたからこそ、美しかったんだ。すてきだったんだって……」
立子はそこまで言うと、脱衣場へと出て行った。

立子はついに決心して剛造に言う。
立子「パパ、今すぐあの人と別れてほしいの」「パパ、パパは本当にあの人を……愛してる。いい人だと思ってる。ね、パパ、どうなの」「パパ、パパはだまされてるのよ」
剛造「立子、少し口をつつしみなさい。かりにもお前の母親なんだぞ」「一端、夫婦になったものはな、そんなに簡単に別れられるもンじゃないんだよ」
するとそこに文枝がやって来る。
文枝「そのとうりよ」
立子「別れられないんなら、私がこの家を出てゆきます」
その言葉に娘の頬を平手打ちする剛造。
立子は二階に駆けあがってしまう。
剛造は文枝に言う。
剛造「少し考えさせてほしいんだ」「――お前との別居の事だ」「私は立子を不幸にする為にお前と一緒になったんじゃない。今夜、わしは生まれてはじめて立子をなぐった」「お前と別居する事で私たちの再婚の本当の意味を考えてみたいンだ」
文枝「何ですって……それじゃ私は……私はどうなるンです。丸っきりだまされたみたいじゃないですか」
剛造「だまされた!そりゃどっちが言うせりふかな。お前の体からは他の男のにおいがするぞ!」
ギクッと剛造を見る文枝。

文枝は早田を喫茶店に呼び出した。
文枝「あのおいぼれ、別居をほのめかしたわ」
早田「終りですね」「このままじゃ、我々の計画は終りだと言ったんです」「あきらめましょ。考えてみりゃはじめから無茶だった」「しめて五十四万、ケチな二重帳簿でもうけましたがね、これもいずればれるでしょう」
文枝「たったの五十四万円……ね、早田さん!」
文枝、早田の耳もとへ何事かささやく。
早田「え!」
驚く早田に、文枝にんまり笑ってみせる。

数日後の夕方。
学校から帰る途中の立子のそばすれすれに車が止まり、男(明)が降りてきた。
立子「あ、貴方たちは!」
立子のわき腹には鋭いナイフが当てられていた。
明「おっと、声を立てないで下さいよ」
明が立子を無理矢理押し込むと、車は急いでその場から走り去った。

剛造の会社に電話があったのはそれからまもなくのことだった。
剛造「何だって、立子を。キ、君は誰だ!!」「えっ!! 三百万……」
明「いいか、今夜九時、金は××の前に停めてあるセドリックの中に入れろ」「判ったな……警察に知らせたら、立子さんは永久にお帰りになりませんよ」
電話を切る明。うす暗い部屋には、哲とサブ、それにスリップ一枚にされて震えている立子がいた。
哲「フッフフフ、これでよしと。明、お前仲々の役者だぜ。(時計をのぞき)九時まではたっぷり時間がある。(立子を一瞥し)フッいい体してるぜ」
ビリッと立子のスリップを引き裂く哲。
サブ「おい明、約束どうりお前からスタートだ! フッフこのスケジュールは依頼者にも内緒だぜ」
明、ニヤリとすると立子の方へ近づいていく。
悲鳴をあげる立子。

一方、電話が切れたとたん、心臓が前から弱かった剛造はその場に倒れてしまった。
だが、警察に電話しようとする早田を止めると、「有り金を全部かきあつめてくれ」と命じる。
八時半、床に伏せっている剛造の前で、早田は札束をボストンバッグにつめると、立ち上がった。
早田「じゃ、社長!」
剛造「悪い気をおこしてくれるなよ」「その金だけは、ちゃんととどけてくれ。今までの……今までの二重帳簿は帳消しにする。目をつむってやる。だから、その金だけはちゃんととどけてくれ」
早田は剛造を一瞬見つめ、逃げるように出て行った。

深夜――。
眠っていた剛造がハッと目を開く。
襖が音もなく開いて入ってきたのは、ボロ屑のようになった立子だった。
剛造「お、お前、ま、まさか、立子、え、何があったのか話してくれ」
ワッと泣き伏す立子。
立子「だめ、もうあたし駄目よ」
剛造「可愛そうに……立子、出なおそう。わしも一文なしになっちまったんだ」
だが、剛造にはもう人生をやりなおす気力も体力も残っていなかった。
剛造はひとりきりで家を出ると、自殺した。

剛造の遺影を見つめる立子。
机の引出しから封筒を取り出し、丁寧に便箋を広げる。
それは剛造の遺書だった。
剛造の声「立子……わしは完全に負けたんだ。何もかも、もってかれちまったんだ。あの二人はわしが四十年間営々と築き上げてきた財産を……いや立子、わしはもう何も言うまい。ただお前に一言お詫びを言いたい。立子、だらしない父親を許してくれ! 立子、パパは今大変澄んだ気持でいる。立子、お前だけは強く生きてくれ」
あふれてくる涙をおさえる立子。
翌日、立子は家を出て、文枝と早田の前から姿を消した。

製作日記:『あばずれ』のあらすじ(2)2010年8月2日

家を出た立子は体を売るようになっていた。
ラーメン屋で、立子は糸子という女に声をかけられる。
糸子「ねえ、何でさあんたみたいな美人がこんな商売しなきゃなンないの」
立子「あたし……お金がほしいンです。今すぐに何百万とほしいンです」
糸子「フーン(ジロジロみて)だけどさ、あんたみたいな美人だったらどこでも引っぱりだこだよ」「いいわ、うちのクラブ紹介したげる」

数日後、旅館の一室に入ってくる立子。
待っていた客は自分を最初に犯した明だった。
明「あ、あんた……山川立子じゃないか……」
逃げようとする立子に抱きつき、押し倒す明。
明「俺はな、探したんだぜ。あんたの事がどうしても忘れられなかったンだ」「ア、あんたに似た娘が、このクラブにいるって聞いて、俺はすっとんで来たんだ」
立子を抱いたあと、明は言う。
明「あんたのお袋もひどいことしたもンだなァ」「あの五百万で立派なバーを買い取りやがって、大したもんだぜ」
立子「それ、どう言う事なの!」
明「あんたを誘拐するように頼んだのはな、あの女なんだぜ」
立子「やはり、そうだったのね!!」
そのとき、立子の目が異様に光った。

一年後――。
立子はマンションに住んでいた。
ソファにかけて新聞の株式欄を見ていると、明がやって来る。
立子「どうだった」
明「万事オーケーだ。組のものをつかってめちゃくちゃにしてやったぜ」
立子から札束を受け取る明。
立子「警察は動かなかったのね」
明「大丈夫さ。むこうもスネに傷ある身だ。訴えたくとも訴えられないぜ」
そういうと、明は立子の体を求めてくる。
明「立子、俺は思うンだが、一寸、ヤバクないか」「予告篇が過ぎて相手が変に警戒しやしないかな」
立子「貴方は警戒しないの」
明「え!」
立子「冗談よ。バカね。本気で驚いてる」
立子は明に接吻する。

文枝が経営するバー「黒猫」に入ってくると、三、四人のホステスが一隅に縮こまっていた。
ホステス1「ママ、私、もうこんなこわいお店で働くのはいや。私、今日かぎりやめさせていただきます」
ホステス2「ママ、どうして、このお店ばかりこんな目に逢うの。これで五度目よ、一と月のうちに」
文枝はヤクザに荒らされた店内を見て言葉を失う。
文枝「――」

バー「黒猫」の二階のベッドにいる早田と文枝。
早田はサイドテーブルから一枚の葉書を手に取る。その葉書には黒枠の真中に「山川剛造(69)」とだけ記されていた。
早田「立子にちがいない」
文枝「何故なの。何故一年も立ってから」
早田「復讐にはそれ相当の準備がいる」
文枝「こわい。こわいわ」
早田「俺だってそうさ。姿を現さないだけに余けいうす気味が悪い」
そして、翌日、店に下りてきた文枝は思わず悲鳴をあげる。
床に転がっている男女のマネキン。その胸のあたりにはべっとりと赤い絵の具がぬられていた。
早田「全く小娘らしいいたずらだ!」
早田はマネキンを蹴飛ばした。

同じ頃、立子はひとり、レストランにいた。
支配人「メニューはいつものでよろしうございますか」
立子「いいわ。今日は二人前ね」
支配人「二人前とおっしゃると、あとからお連れさんでも?」
立子「ううん……もういるわ。この中にね」
ペンダントを示す立子。
支配人「ほう御主人ですか」「最愛の御主人にかげせん……それはそれは、じゃあ、少々お待ちを」
支配人が去ったあと、立子はパチンとペンダントを開け、剛造の写真を見つめる。

閉店後のバー「黒猫」。
(このシーン83は重要なので、シナリオを全文引用することにする。と言っても、渡辺さんの書き込みのため、吉田義昭の原文がきちんと読めないところがあるのだが……)

83  バー・黒猫
「お休みなさい」
と、口々に言って帰ってゆくホステスたち――後しまつをしていたバーテンも、文枝に会釈すると出てゆく。
文枝、ドアに錠を下そうとする。いきなりドアが開き、スーッと入ってくる、サングラスの女、立子である。
文枝「おそれいります。閉店なんですけど」
立子「それを待っていたのよ」
後手にドアをしめ、サングラスをはづす。
カウンターに剛造の写真を、ポンとのせる。ハッとする文枝。
立子「しばらくだったわね」
文枝「立子……さん」
立子「仲々、いいお店ね」
ジロッと見る。
文枝「立子さん、あ、あたし、あなたに何てお詫びしようかとズイ分探したのよ」
立子「予想どうりの台詞ね」
文枝「……」
恐怖のまなざしで立子を見る。
立子「あたしが、こわいの」
文枝「――」
立子「文枝さん、これからあたしが何しようとするか判る」
果物皿のナイフをもてあそぶ。
文枝「許して許して下さい。悪かった。わたしが悪かったんです」
立子「いくらあやまっても、あたしが生娘にもどれると言うの。ええ、お金だけだったら許せたかもしれない。でも、あんなひどいことを……ね、沢山の男になぶりものにされた女の気持がどんなものか、フッフフ……もっともあんたみたいな女は別でしょうけどね」
文枝「立子さん、あれは早田が……」
立子「誰が考えたって、あたしにとっちゃ同じ事だわ。おかげであんただってこのお店が持てたんじゃないの、そうでしょ」
果物ナイフを握りしめて近づく。
文枝「あ、あたしを、こ、ころす気ね」
立子「(冷たく)殺されたって仕方ないと思わないの」
文枝「立子さん、あ、あたしの言い分も聞いて……」
立子「文枝さん、ここは裁判所じゃないわよ」
文枝「じゃ、どうすれば、ね、殺すのだけはやめて、おねがい、もう何もいりません。このお店だって……」
立子「バカなこと言わないで。今のあたしは、あんたよりお金持ちかもしれないわ。この日にそなえて、あたし、体を売ってかせいだのよ。苦しかった。みじめで死にたくなった時もあったわ。でもね、文枝さん、あたしにはパパがついててくれたのよ」
文枝「――」
後づさりをはじめる。
立子「逃げられないわよ」
屹っとナイフをかまえる。
文枝「殺して、一思いに、一思いに殺して頂だい!」
立子「何てみにくい顔してるのよ。フッフフ、早田がみたらどんな顔するかしらね」
文枝「早田さん……」
立子「その早田に電話をかけてほしいの」
と受話器を取る。
文枝「電話を……」
立子「そう、わたしの言う通りにね。『もしもし、あんた、あたし。○○街道の電話ボックスの処で待っていて、お願いよ。立子の居処が判ったの』 これだけの事よ」
文枝「――」
立子「今のとうりを言うのよ。言ってごらんなさい」
文枝「もしもし、あんた、あたし。○○街道の電話ボックスの処で待っていて、おねがい……立子の居処が判ったの」
立子「そんな、ふるえ声じゃ駄目よ」
いきなり、傍のウイスキーを取ると、無理矢理、文枝の口にながしこむ――立子、冷たく瞶めると無言で受話器を渡す。
立子、片手で果物ナイフを、文枝の胸元に当て、もう一方の手で、ダイアルをまわす。
ツー言う相手のベルの音が異様に大きく聞こえる。

立子は文枝を銃で脅してスポーツカーに乗せると、指定した場所に行く。
立子「ここから反対側の道路をみてるのよ」
そう言って、電話ボックスに文枝を押しこむ立子。
やがて早田がやって来る。
電話ボックスの中にいる立子と文枝に気づき、道の真中で足が止まってしまう早田。そのとき、一台の車が走ってきて早田をはね飛ばす。
車を運転していたのは、明だった。
血まみれの早田を見て悲鳴をあげる文枝。
立子「今度はあなたの番よ」

(ラストまでの部分もシナリオを全文引用しておく)

94 走るスポーツカー
立子と文枝。
立子「文枝さん! まだ気絶するには早いわよ」
ぐったりとして腑ぬけのようになった文枝を小突き、グーとアクセルを踏む。

95 ある海岸
立子のスポーツカーが乗り入れてきて砂丘のかげにパークする。立子、文枝を引きずり下して波打ぎわまで連れてくる。
立子「文枝さん、あたしと同じ目に逢わせて上げるわ」
文枝かっと目をむくと叫びながら這いずりまわって逃げる。
文枝「あ、あんたって人は……これまでにしなくても! 鬼! 畜生……」
文枝、ハッとなる。目の前に男のクツ――見上げると明が立っている。
明「久しぶりだぜ、奥さん!」
文枝「?」
明「忘れたのかよ。ほら、あんたが立子のおやじと一緒になる前に働いてたバーのバーテンだよ」
文枝「明……」
明「そうよ、あんたが兄貴に頼んだ人さらいごっこに俺も一枚かんでたって訳さ」
文枝、ダッと逃げようとする。
はりたおす明。立子その隙に車の処まで来て乗りこむ(身を隠すように)。
明「奥さん、因果はめぐる何とやら……たんまりうれしがらせてやるぜ」
ピーッと口笛を吹く――と船の影から二人の男が現れる。
ニヤッとする明――明、いきなり文枝のブラウスとスカートをはぎとってしまう。
明、目で合図。ニタッと近づく男(甲)(乙)。
文枝悲鳴を上げて這いずりまわる。男(甲)がピリッと文枝の黒い下着を引きむしる。
冷く瞶める明――

(『あばずれ』の印刷台本はここまでしか残っていない。以下に引用するものは渡辺護が1990年代に書いた生原稿から)

○ ある海岸
(このシーンの出だしは吉田義昭のシナリオと同じなので省略)
明「忘れたのかよ。ほら、あんたが立子のおやじと一緒になる前に働いてたバーのバーテンだよ」
文枝「――明……」
明「……あんたが兄貴に頼んだ人さらいごっこのに、俺も一枚かんでたって訳さ」
文枝、ダッと逃げようとする。
はりたおす明。
明「うれしがらせて、やるぜ」
ピーッと口笛を吹くと、二人の男が現れる。
文枝を、裸にして犯す。

立子、犯され、再現する。
犯される文枝。
冷たく瞶める立子。手に、ペンダントがしっかり握られている。
ヨロヨロ立上り、逃げる文枝。
近よる立子。文枝をうつ。
「ギアー」倒れる
茫然となっていた明。
明「立子!」
立子「――」
明「やばいよ。立子、逃げよう」
立子、明をみつめると、
立子「甘かったわね、明」
明「え!」
立子「許せないわ、やはり、あんたも許せない」
明「バ、バカ、よせよ!」
立子、うつ!
のけぞって、倒れる。
うつ! うつ!

○ 街
太陽が、のぼってくる。

○ 街
立子「パパ、あたしやったわ。見てて下すったわね。でも、立子もうつかれちゃった」
あどけないその顔に、スーと伝っておちる涙。
ピストルを握って、

<補足>

・『あばずれ』の印刷台本の冒頭にある製作意図は渡辺護が書いたものだという。

<製作意図>
十七才という年令は人間の分岐点である。特に女性はそうである。この不安な年令にプラスαの危険な情熱がもえさかったらどうなるか、この映画は十七才の処女が如何に惨酷になり得るか、いかにその潔癖な肉体と精神を危険な情熱にかけて斗い、そのいじらしいまでの生命(いのち)をもやしたか――十七才の処女のギリギリの復讐をハードタッチで描いてみた。

・吉田義昭のシナリオでは、冒頭シーンで心臓の弱い剛造は川に身を投げて死ぬことになっているが、映画では電車に飛びこんで死ぬことになっている。印刷台本に記されたカット割りは以下のとおり。

(1)線路道に立つ剛造。
(2)列車が来る
(3)ハッとして顔をあげる
(4)走る列車で
(5)
(6)暗黒

・剛造の自殺シーンのカット割りの続きには、次のような書きこみがある。

(1)ハッとして上げる目
動かない
タイトル あばずれ

渡辺さんによると、立子の目だけにライトをあて、画面下半分の闇の部分に「あばずれ」とタイトルを出したという。(これと同じことは『少女縄化粧』でもやっていて、『変態SEX 私とろける』の台本にもよく似た構図のカットが描かれている)

・「ママ、私はママに絶望しちゃったの」で始まる立子と文枝の対話は、シナリオでは風呂場になっているが、映画では、風呂上りの文枝を暗い廊下で立子が待ちぶせして話しかけるというふうに変更したとのこと。

・立子が明たちにレイプされるシーンは、女王蜂というキャバレーの楽屋を借りて撮影された。衣装戸棚に逃げこむ立子を引きずり出すなどの芝居があって、三人の男たちが群がってその体をおおいつくすようにレイプをし、最後はうつぶせで床に転がっている全裸の立子を引いた画で撮ったという。渡辺さんの話では、今の感覚で見たら猥褻でも何でもないと言うのだが、それでも、映倫審査では全裸の立子が映るラストカットが問題になり、短くするように命じられたという。
・印刷台本に記されたレイプシーンのカット割りは以下のとおり(このカット割りどおりに撮っていないとのことだが、参考までに書き写しておく)。

C-1 明をナメて立子、哲、サブ
C-2 明、立子ジッと見る。
C-3 立子のUP 「イヤーッ」
C-4 明、立子強引に抱いて行く
C-5 残った二人
「いやーっていったって、エンジンはかかってるんだ!」
C-6 明の足ナメの立子。立子悲鳴
C-7 キャバレーの衣装にかくれる
開ける明の手
C-8 明、立子を引っぱり出し、壁に押しつける抱く
C-9 バタバタする足
C-10 哲とサブ、やけに煙草をフカす
C-11 倒れる立子 おおいかぶさる明
C-12 押さえつける明
C-13 明のUP
C-14 立子のUP
C-15 二人のUP
C-16 サブ、哲のUP
C-17 降りて来る明
二人をナメて
サブ「熱演だったな」
C-18 倒れている立子に
サブの足

(1)かくれる立子
(2)ヒッパタキ
(3)押したおす
(4)転回
(5)押さえつける

・立子がバー「黒猫」にやって来て文枝と会う場面(シーン83)の出だしのカット割りは以下のとおり。

C-1 バー黒猫のネオン
セリフかぶって
ネオン消える
C-2 文枝カウンターの中
かたづけて
C-3 ドアが開く
立子入る 文枝にかくれて
誰だかわからない
後ずさりする文枝
C-4 後ずさりする文枝
カウンターを背に
文枝わからない
立子の手のネックレス カウンターに置く
C-5 文枝をナメて立子UP
室内を見る サングラスをはずして

・シナリオでは、早田は明の運転する車にはねられて死ぬことになっているが、映画では、車から逃げようとして踏み切りに入ったところを、電車に轢かれるというふうに変更したとのこと(剛造の死に方と同じにした)。

・渡辺さんの手書き原稿だと、復讐を果たした立子は街で拳銃自殺することになっているが、完成した『あばずれ』では、夜明けの海辺で自殺しているとのこと。「パパ、あたしやったわ。見てて下すったわね。でも、立子もうつかれちゃった」とつぶやく立子をロングショットでとらえ、彼女がこめかみに銃をあてたところで、キャメラはゆっくりとティルトアップし、空に銃声が響くというふうにしたという。