『喪服の未亡人 ほしいの…』について(常本琢招)

『喪服の未亡人 ほしいの…』(原題『おきみやげ』)は渡辺護監督の遺作であると同時に、監督渡辺護+脚本井川耕一郎の初タッグ作(映画では)である。このあと、2作目として『たからぶね』が用意されていたわけだが、この2作の脚本、一見して明らかなように、相似形をなしている。

『おきみやげ』は夫に裏切られた妻の「一風変わった」復讐劇。
『たからぶね』は妻に裏切られた夫の「一風変わった」復讐劇。
しかし、さらに眼をこらして良く見ると、2本の内実は相当異なってもいる。

『おきみやげ』は、井川耕一郎が描いてきた「若妻が次第に狂っていく」という一連の作品群(僕監督の『人妻玲子 調教の軌跡』、大工原正樹『赤猫』など)に連なる一本であり、傑作が多い井川のフィルモグラフィの中でも特に完成度の高い脚本がそろうその作品群の特徴は、一組の男と女が密室で延々と語り合い、からみ合い…という「2」が基本単位となっている。
渡辺監督の色というより、純粋井川濃度が高いホンなのである。

いっぽう、『たからぶね』は2組の夫婦=「4」を基本単位とし、より「普通に」楽しめる、より「普通の」ピンク映画に近づいた映画になっている。
2組の夫婦のスワッピングが後半の流れになる訳だが、これ、過去のピンク映画で無数に見てきた流れで(特に中村幻児監督の傑作スワッピングものを見た記憶があるのだが、タイトルを思い出せない…『ぬれぬれ監禁』だったか、『セックスドキュメント くい込む!』だったか…)、とにかく「なつかしい」ピンク映画の匂いがして、ここまで普通のピンク映画に近づいたホンを井川が書いたことに初見時は驚いた(もちろんここで言う普通とはありきたりという意味ではなく、井川ならではのひねり、こだわりに満ちたホンになっている訳だが…)。
『たからぶね』のホンを渡辺監督が喜んだことは想像に難くなく、渡辺護版『たからぶね』がどんな映画になったか、それを確かめられないのは本当に残念なことだ。

で、『喪服の未亡人 ほしいの…』についてなのだが、初見時も、今回再見してもあッ!と驚いたのは、渡辺監督がヒロインの淡島小鞠を“最初から”「狂った女」として描いていることだ。ヒロインは映画のファーストカットからぼさぼさの髪、取り付かれたような眼で、立ち上がろうとすればスラプスティック映画の主人公のように派手にスっ転がる。明らかに常軌を逸している。
僕が『人妻玲子 調教の軌跡』を撮ったとき(大工原も『赤猫』でそうだったと思うが)、ヒロインは最初は狂っておらず、徐々に狂気にシフトしていくというアプローチを取っている。最初から狂気に突入させていたら相当高い演出テンションで全編を押しきねばならず、その自信が無かったからだ。
それを初手からハイボルテージで押してきたので、「さすが渡辺護!」と驚きかつ感服したわけなのである。

その理由は…ヒロインを演じた淡島小鞠さんの資質にあるのではないだろうか。
僕にとって渡辺護監督は何より「ヒロインを魅力的に撮る監督」。日野繭子、鹿沼えり、美保純、可愛かずみ、美野真琴(人生で一番好きな女優である彼女を好きになったキッカケが渡辺監督『痴漢電車 いたずらな指』)…たぶん、彼女たちは“素”が魅力的で、その本人の素の魅力を演出でいかに魅力的に見せるか、実はなかなか難しいその演出ワザに長けておられたのだと思う。
(『喪服の未亡人 ほしいの…』に関するインタビューで、ご本人も同様の発言をされている。「ピンク映画の現場では、事前に考えたコンテどおりに撮れないときがある。そういうとき…役者の素の魅力を活かして面白く撮るにはどうしたらいいかを考えるんだ」( 「渡辺護、『喪服の未亡人 ほしいの…』を語る」))

しかし、淡島さんの場合はご本人の素の魅力、というより、演出で「ある型にはめた」時に魅力を発揮するタイプに見える。その対策として初手からハイテンションにさせるという演出手法をとったのではと思えるのである。(むしろ、結城リナや倖田李梨に、「素の魅力を生かす」渡辺演出を見て取れる。倖田がタオルで股間を拭う演出は脚本には無い)
渡辺流(渡辺監督の好きだった言葉)の「型にはめる」演出でさらに今回武器にしているのが、コスチュームプレイである。序盤で印象的な黄色いダッフルコートに身を包んだ淡島小鞠は、華奢な体型もあって、まるで少年のようだ。その印象をあえて植え付けておいて、後半の「黒い喪服の未亡人」姿、そしてラブホテルでのパープルのスリップで「女」を強烈に印象づけるという、まさに老練な演出家のワザには、舌を巻かざるを得ない。

そしてもう一点、ヒロインと結城リナがエレベーターですれ違ってからヒロインが結城を追うシーンの一連、精密なカット割りでサスペンスを盛り上げる演出は、巨匠でありながら若々しく、というよりベテランでしか到達し得ない瑞々しさの境地なのだろうが、ぜひ見逃さないでいただきたい。

(2014年・常本琢招(映画監督))